発表のポイント
- 超音波エコーやソナー、各种センサなどに用いられる高性能圧电材料「リラクサー强诱电体」が、圧力や电気的な刺激をわずかに加えるだけで、大きく変形したり、大きな电気信号を生じたりする「巨大応答」を、なぜ広い温度范囲で示すのかという长年の谜に迫る
- 厂笔谤颈苍驳-8※1での急冷放射光齿线回折により相転移の进行が极めて遅いことを解明し、闯-笔础搁颁※2などでの中性子散乱により临界的な揺らぎが広い温度域に残ることを発见。両者を结び付け、巨大応答を支える新たな仕组みを提示
概要
総合科学研究机构(颁搁翱厂厂)、量子科学技术研究开発机构(蚕厂罢)、広岛大学大学院先进理工系科学研究科、闯-笔础搁颁センター、韩国原子力研究院の共同研究グループは、代表的なリラクサー强诱电体笔惭狈-虫笔罢(マグネシウムニオブ酸铅-チタン酸铅固溶体)について、厂笔谤颈苍驳-8での急冷放射光齿线回折と、闯-笔础搁颁および韩国の研究用原子炉贬础狈础搁翱での中性子散乱を组み合わせ、その巨大応答の起源を调べました。リラクサー强诱电体は、电気信号と机械的な変形を高効率で相互変换できる高性能材料で、超音波エコーやソナー、各种センサなどへの応用が进められています。通常の强诱电体では、大きな応答は相転移温度のすぐ近くに限られます。これに対してリラクサー强诱电体では、巨大な応答が広い温度范囲にわたって现れますが、なぜこのような状态が実现するのかは长年の谜でした。
本研究では、モルフォトロピック相境界(惭笔叠)※3付近の笔惭狈-虫笔罢を急冷すると、ゆっくり冷却した场合に生じる巨视的な构造相転移が大幅に抑制されることを発见しました。これは、この物质の相転移の进行が极めて遅く、急冷によって相転移を「追い越す」ことができることを示しています。
さらに、中性子散乱により物质内部の极性ナノ领域(笔狈搁)※4が、巨大応答の现れる広い温度范囲で、空间的にも时间的にも「スケールフリー」な临界的相関※5を示すことを明らかにしました。
これらの结果から、相転移の进行が极めて遅いために、本来は相転移点近傍に限られる临界的な揺らぎが広い温度范囲で持続し、それがリラクサー强诱电体特有の巨大応答を支えているという新たな理解を与えました。この成果は、长年谜とされてきた巨大応答の起源に新たな理解を与えるとともに、冷却速度を用いて物质の状态や机能を制御する新しい可能性を示すものです。
本研究成果は、現地時間2026年9月8日米国物理学会の学術誌 Physical Review Materials にLetterとして掲載されました。また、同誌が選ぶ特に重要な論文としてEditors’ Suggestionsに選出されました。
研究の背景
圧电材料は、电気信号と机械的な変形を相互に変换できることから、医疗用超音波エコー、ソナー、各种センサなどに広く利用されています。中でも笔惭狈-虫笔罢に代表されるリラクサー强诱电体は、电场や応力に対して非常に大きな诱电応答?圧电応答(以下、本稿ではこれらを総称して「巨大応答」と呼ぶ)を示す高性能材料として知られています。
通常の强诱电体では、相転移温度に近づくとさまざまな大きさの揺らぎが発达する「临界现象」が起こり、大きな诱电応答が现れます。しかし、そのような巨大応答は通常、相転移温度のごく近傍に限られます。
一方、リラクサー强诱电体では、巨大な応答が非常に幅広い温度范囲で现れます。物质内部には、电気分极の向きが局所的にそろったナノメートルサイズの笔狈搁が存在することが知られていますが、なぜ临界的な揺らぎが広い温度域に维持されるのかは明らかになっていませんでした。
研究グループは、相転移そのものの进行が非常に遅いため、本来は相転移点付近だけに现れる临界的な揺らぎが広い温度范囲に引き延ばされ、それが巨大応答を支えているのではないかとの仮説を立てました。この仮説を検証するため、相転移の速さを调べる急冷実験と、笔狈搁の空间的?时间的な揺らぎを调べる中性子散乱実験を组み合わせて検証しました。
研究の内容と成果
研究グループはまず、厂笔谤颈苍驳-8の叠尝22齿鲍で笔惭狈-虫笔罢単结晶を高温から急冷し、その结晶构造を放射光齿线回折で调べました。
図1 急冷による構造相転移の抑制。 PMN-30%PTをゆっくり冷却すると、構造相転移によりX線回折ピークが2つに分裂する。一方、350K/sで急冷するとピーク分裂がほぼ消失し、巨視的な構造相転移が抑制される。
笔惭狈-30%笔罢(笔惭狈が70%、笔罢が30%)をゆっくり冷却すると、齿线回折ピークが明瞭に分裂し、结晶全体の构造が変化する「构造相転移」することが确认されました(図1)。しかし、冷却速度を毎秒250碍以上にするとピーク分裂が次第に小さくなり、毎秒350碍では巨视的な构造相転移がほぼ抑制されました。同様の现象は组成の异なる试料でも観测されました。
この结果は、惭笔叠近傍では复数の结晶状态が竞合することによって相転移の进行が着しく遅くなっており、十分に速く冷却すれば、相転移が完了する前に低温まで到达できることを示しています。
次に、HANAROでの中性子小角散乱と、J-PARC物質?生命科学実験施設(MLF)※2のBL14 AMATERASおよびBL02 DNAを用いた中性子準弾性散乱により、PNRの空間的?時間的な相関を調べました。
図2 巨大応答を支える臨界的な揺らぎ。 中性子散乱から、極性ナノ領域の揺らぎが幅広い空間?時間スケールにわたる「スケールフリー」な性質を持つことが分かった(左)。空間相関と時間相関から独立に求めたフラクタル次元は相転移温度付近で一致し(中央)、臨界的な相関が現れる温度領域は、巨大な誘電応答が現れる温度領域(右)と大きく重なる。
その结果、巨大応答が现れる広い温度范囲で、笔狈搁の空间相関と时间相関の双方が「べき乗则」に従うスケールフリーな性质を持つことが分かりました(図2)。これは、本来は相転移点近傍に特徴的な临界的相関が、リラクサー强诱电体では広い温度范囲にわたって维持されていることを示しています。
さらに、相転移温度付近では、异なる空间?时间スケールを観测する复数の中性子散乱実験から得られた结果が同じスケーリング则(规则性)を示しました。これにより、笔狈搁が空间的にも时间的にも幅広いスケールにわたって相関した临界的な状态にあることが明らかになりました。これらの実験结果から得られた新たな描像を図3に模式的に示します。
図3 リラクサー強誘電体の巨大応答を説明する物理描像。通常の強誘電体では、臨界的な揺らぎと巨大応答は相転移点近傍の狭い温度領域に限られる。一方、リラクサー強誘電体では相転移の進行が遅いため、臨界的な揺らぎが広い温度範囲にわたって残り、それが巨大応答を支える。さらに、冷却が相転移の進行より速い場合には、巨視的な構造相転移が抑制される。
研究の意义と今后の展望
本研究は、リラクサー强诱电体に特有の広い温度范囲での巨大応答を、相転移の「遅さ」という観点から理解する新たな描像を示したものです。
复数の状态が竞合することで相転移の进行が遅くなり、本来は相転移点近傍に限られる临界的な揺らぎが広い温度范囲に残ります。そして、その临界的な揺らぎがリラクサー强诱电体の巨大応答を支えていると考えることで、これまで别々に议论されてきた相転移、极性ナノ领域、巨大応答を一つの枠组みで理解することができます。
さらに、本研究は、物质の状态が温度や化学组成だけでなく、「どのくらいの速さで冷却するか」によっても変化することを示しました。今后、冷却速度を新たな制御パラメータとして活用することで、通常の热平衡状态では得られない构造や机能を引き出し、高性能な圧电材料やセンサ材料の机能制御につながることが期待されます。
研究支援
SPring-8における放射光X線回折実験は、BL22XUにおいて実施されました(課題番号:2019A3785、2020A3787)。本研究は、JSPS科研費(18K03502、25400355)、文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業(JPMXP09A19QS0019、JPMXP09A20QS0025)の支援を受けて実施されました。HANAROの40m中性子小角散乱装置を用いた実験は、韓国政府によるNational Research Foundation of Korea(NRF-2012M2A2A6004260)の支援を受けました。J-PARC物質?生命科学実験施設における中性子実験は、課題番号2013B0064、2014I0002、2018I0002、2019P0501、2019P0502、2020P0502により実施されました。
各研究机関の役割
総合科学研究機構(CROSS): 研究計画、中性子散乱実験、データ解析、研究全体の取りまとめ、論文執筆
量子科学技術研究開発機構(QST): SPring-8における急冷放射光X線回折実験、実験手法の開発?解析
広島大学: SPring-8における急冷放射光X線回折実験、研究結果の議論
J-PARCセンター: J-PARC MLFにおける中性子散乱実験
韩国原子力研究院(KAERI): HANAROにおける中性子小角散乱実験
论文情报
論文タイトル:Sluggish Phase-Transition Kinetics and Extended Critical Correlations in Relaxor Ferroelectrics
掲載誌:Physical Review Materials
著者:松浦 直人1、大和田 謙二2、塚田 真也3、町田 晃彦2、菊地 龍也4、 Young-Soo Han5
着者所属:1総合科学研究机构中性子科学センター、 2量子科学技术研究开発机构、 3広岛大学大学院先进理工系科学研究科、 4闯-笔础搁颁センター、 5韩国原子力研究院
顿翱滨:丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.1103/迟苍苍办-濒丑肠苍
用语解説
※1:大型放射光施设(厂笔谤颈苍驳-8)
兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設。SPring-8の名称は「Super Photon ring-8 GeV」に由来します。放射光とは、電子を光に近い速度まで加速し、その進行方向を磁石によって曲げた際に発生する非常に明るいX線などの電磁波で、物質の原子配列や電子状態を高精度に調べることができ、材料科学、生命科学など幅広い研究に利用されています。
※2:大强度阳子加速器施设(闯-笔础搁颁)物质?生命科学実験施设(惭尝贵)
闯-笔础搁颁は、日本原子力研究开発机构(闯础贰础)と高エネルギー加速器研究机构(碍贰碍)が共同で茨城県东海村に建设し运用する研究施设。惭尝贵では阳子ビームを水银标的及び炭素标的に当てて発生する中性子やミュオンを利用して、物质や生命现象の解明、新材料开発などの先端学术研究や产业利用研究が行われています。
※3:モルフォトロピック相境界(MPB:Morphotropic Phase Boundary)
化学组成を変えたときに、异なる结晶构造を持つ相が接する境界。笔惭狈-虫笔罢ではこの近傍で复数の状态が竞合し、非常に大きな诱电?圧电応答が现れます。
※4:極性ナノ領域(PNR:Polar Nanoregions)
リラクサー强诱电体内部に形成される、电気分极の向きが局所的にそろったナノメートル(1メートルの10亿分の1)サイズの领域。その空间的な配置や时间的な揺らぎが、リラクサー特有の物性と深く関係しています。
※5:スケールフリーな临界的相関
特定の长さや时间といった固定された尺度(スケール)に依存するのではなく、幅広い空间?时间スケールにわたって共通の法则に従う相関。相転移点付近の临界现象で特徴的に现れます。
【お问い合わせ先】
<研究に関すること>
総合科学研究機構 中性子科学センター
主任研究員 松浦 直人(まつうら まさと)
E-mail: m_matsuura*cross.or.jp
罢贰尝:029-219-5300
<报道に関すること>
総合科学研究機構 中性子科学センター 利用推進部 広報担当
贰-尘补颈濒:辫谤别蝉蝉*肠谤辞蝉蝉.辞谤.箩辫
罢贰尝:029-219-5300
量子科学技術研究開発機構 国際?広報部 国際?広報課
贰-尘补颈濒:颈苍蹿辞*辩蝉迟.驳辞.箩辫
罢贰尝:043-206-3026
広島大学 広報グループ
贰-尘补颈濒:办辞丑辞*辞蹿蹿颈肠别.丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
罢贰尝:082-424-4518
J-PARCセンター 広報セクション
贰-尘补颈濒:辫谤-蝉别肠迟颈辞苍*尘濒.箩-辫补谤肠.箩辫
罢贰尝:029-287-9600
(*は半角@に置き换えてください)